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厳寒の候、いかがお過ごしでしょうか。といいつつ、今回は季節感を全く無視した「蚊帳」の話題。南半球もしくは常夏の国にいるつもりでお読みいただければと思う。 昨年夏に蚊帳の取材をした。子どもの頃蚊帳を使われた経験がある方もいらっしゃるかと思うが、今、蚊帳はインターネットなどを通じて販売量が伸びている。殺虫剤を使いたくないという自然派志向の人や、マンションでエアコンをつけて寝る人も愛用している。蚊帳を吊ることで冷風が直接体に当たらず喉を痛めないのが良いそうだ。で、その取材を通して「技術は愛」というコンセプトに2回も遭遇してしまったのである。 静岡県にある寝具店では5年程前からオーダーメイドの蚊帳の販売を始めた。インターネットでサイズや柄、生地を注文できるというのが支持されて毎年売り上げを伸ばしている。(「ネットでネットを売る」というオチもあり)。この寝具店の社長が素晴らしい方であった。寝具を売るだけでなく「眠る環境」を考えるという視点から、昔ながらの蚊帳に着目した。でも最近は長押(なげし)がない住宅も多く、蚊帳を吊りたくても吊るところがない。そこで、この社長は、檜で作った「蚊帳柱」なるものを開発。突っ張り棒の様に天井から床まで柱を4本立てて蚊帳を吊るという手法だ。これが洋室などで蚊帳を吊りたいと言う人に大好評。春先には「ムカデに悩まされて…」という客の声に答えて、床部分にも生地がある、6面体蚊帳を開発。床の一辺がファスナーになってそこから出入りするのだが、これで夜に忍び寄って来るムカデをシャットアウト。この商品も昨年はムカデのシーズンに1日2〜3件の注文がある大ヒット商品となった。そして、更に「洗える蚊帳」も開発した。従来の蚊帳の生地は平織りで、仕上げに糊を置いて編み目を保っていたため洗えなかった。「蚊帳を洗いたい」という客の声に答え、地元で使われている漁網の織り方である「カラミ織り」を採用することにより、洗濯しても編み目がほつれない蚊帳を作ったのだ。社長曰く「私は何も考えずに、ただお客さんがこうしてほしい、ああしてほしい、と言ってくれるのを形にするだけですから楽なもんです。」いや、違う。客の声を真摯に受け止め、一つ一つの悩みに丁寧に答えるために新たな技術を導入すること、それが本当の経営者だと思う。この店の場合、新商品に使われている技術は最先端テクノロジーでも何でもない。既存の技術を「蚊帳」に応用することで、人々が求める眠りの空間を提供しているのだ。逆に言えば、技術をどう活かすか、活かし方次第でヒット商品は生まれるのだ。社長の印象的だったもう一言は、「以前は『あんたにはこの枕がいい』とか『この布団じゃなきゃだめだ』と偉そうにお客さんを説得していたんです。恥ずかしいですけどね」。こちらが何を売りたいかでなく、相手は何を求めているのか、それに対して自分が何ができるのか、つまり、根底に「相手(客)への愛があるか」だ、と感じた。 そしてもう一つは先月のイラストにも描いた、大手化学メーカーが開発した「マラリア撲滅用蚊帳」。繊維自体に殺虫成分が錬りこまれていて、マラリアを媒介する蚊の侵入を防ぐだけでなく、殺してしまう蚊帳だ。普通の蚊帳だと、どこかに穴が開いていると蚊はそこから侵入してしまう。しかし、この蚊帳なら穴が開いていても、蚊は繊維の一部に触れれば死んでしまうのだ。実はこの技術、もともとは昭和60年代に工場がどんどん郊外など、畑や田んぼに隣接する地域に移転した時、網戸用に開発されたものだ。精密機器などの工場では虫が一匹機械に入り込んでも命取り、それを防ごうというのが狙いで、それをマラリア用にと蚊帳に応用した。アフリカでは今でも毎年300万人ちかくがマラリアにより命を落としている。この蚊帳は人々の命を救う切り札として期待され、昨年はタンザニアに現地工場が設立された。メーカーが全て生産…販売するのではなく、技術を移転することで、現地の人たちの雇用確保にもつながる。生産された蚊帳は全量ユニセフが買い取り、必要な地域に無料で配布されている。 どんな商品も、その開発の根底には愛がある。「技術は愛」です。 |