日本経済新聞 H17.7.30
日経プラス1 掲載記事

 蚊帳 人気再び



※ 蚊帳の取扱説明書
麻素材 心地よくベッド仕様も登場


姿を消しかけていた蚊帳(かや)が人気を盛り返している。製品も麻素材が増えたほか、ベッド仕様も登場するなど、現代風になってきた。都会暮らしの人も蚊帳にあこがれ、夏の風情を楽しんでいる。その暮らしぶりを追った。

 東京・杉並区にある木造の一軒家。二階の日本間に麻製の蚊帳を吊り、窓を開け放して眠るのが照明家・仲西祐介さんの夏の就寝スタイルだ。
「二年前、旅先のインドで蚊帳の良さを再発見した。自然の風が蚊帳を通ってそよそよ舞い込む。その心地よさに驚き、蚊帳を探すことにした」と仲西さん。
帰国後、古道具屋に行ってみた。売られていたのは、戦後から昭和三十年代に作られていた蚊帳。合成繊維で、傷みもあり買う気がしなかった。「日本では蚊帳は絶滅したのか」とあきらめかけていたところ、雑誌で「進化した蚊帳」と出会った。
「きなりのままの色がやさしい麻百lの素材。ベッド仕様なので立ったまま出入りできるところが気に入った。フロアライトを入れると、蚊帳全体が光のかたまりになって美しい。母の胎内にいるような安堵感を覚えるのも魅力」
 東京・新宿区のマンションに住む村松麻衣子さんも今春、ベッド仕様の蚊帳を購入した。夫妻はともに「クーラーの風が苦手」で、エアコンを買う代わりに蚊帳をオーダーメイドしたのだ。
「シングルとセミダブルのベッドが一緒に入る蚊帳を特注した。料金は七万円ほど。エアコンに比べれば高くないと思う」
 村松さんが住む環境は都心にしては木々が多く、網戸を閉めても蚊に悩まされていたが、「蚊帳のおかげで安眠できるようになった」。麻素材のため調湿性に優れ、蚊帳の中は体感温度がいくぶん下がるメリットも実感している。村松さんにとっての唯一の難点は、「天蓋のように吊ったままなので、部屋が狭く感じられること」だ。
 中東から唐を経て伝来した蚊帳。日本では奈良時代から作りはじめられ、江戸時代には麻を使った近江蚊帳などの特産品も生まれたが、エアコンや殺虫剤の普及とともに姿を消そうとしていた。その蚊帳に再び生命を吹き込んだのが、静岡県磐田市で寝具店「菊屋」を営む三島治さんだ。九年前よりネットショップ「あんみんドットコム」(http://www.anmin.com/)で扱いはじめ、現代の暮らしにふさわしい蚊帳を相次いで開発。年間千八百帳を販売する。
人気は独自開発した麻100%カラミ織りの蚊帳。縦糸を横糸に絡ませて固定する織り方を採用したもので、丈夫で丸洗いができる。このほか、出入りしやすいスリット入りベッド仕様の蚊帳、蚊帳に底をつけて六面体にしたムカデ対策用蚊帳(出入りはファスナー)などがある。カラミ織りベッド仕様の蚊帳でシングルが四万二千円、ダブルが五万七千七百五十円だ。
「都会に住む三十代四十代の方が買われるケースが目につく。蚊やムカデを防ぎ、クーラーの風を弱めるといった現実的な目的に加えて、日本らしい涼を五感で味わうための道具として蚊帳を求める意識も高い」と三島さんは分析。七月二十一日には三島さんが館長を務める「蚊帳の博物館」(静岡県磐田市 0538・32・5552)がオープン。懐かしい蚊帳や世界中の蚊帳が展示される。

 蚊除けと空間演出を兼ねて蚊帳を暮らしに取り入れるケースも増えている。東京都板橋区の藤井マキコさんは、アジアンティストのものをテラスに取り付け、優雅なリゾート気分漂う空間を作っている。「夕方から夜にかけて、ビールを飲みながら涼むときに最適。キャンドルをともすと、さらに雰囲気がでると友人たちにも好評です」
 外での使用は汚れやすい。藤井さんは、白さをキープするためにこまめに洗濯をする。すすぎの際、シトロネラやレモングラスなど虫除け効果のある精油を加えるという。
蚊帳を吊って自然の風を感じたり、夏らしいインテリアにしたり、楽しみが広がりそうだ。  (ライター金丸 裕子)