1章 蚊帳の外から 蚊帳の中へ   <序章にかえて>
蚊帳と書いて「かや」と読める人が果たして今の日本人にどれくらいの割合でいるだろう? 

しかし蚊帳は見当たらなくても「蚊帳の外」はしっかり存在している。もっとも、近頃では

「蚊帳の外」に追い出されることを「シカトする」などと表現しているようだ。

初めて耳にした「シカト」を国語辞典で調べるも見当たらず、一時の恥を忍んで知人に聞き、

あわててボキャブラリーのひとつに加えた。

傍らで聞いていた家内はそんなことなら小学生の娘に聞けばすぐ教えてくれるのにと微笑んだ。

なるほど聞いてみると、「蚊帳の外」よりも陰湿な雰囲気がする言葉である。「あいつムカつ

くからシカトしようぜ」などといじめの場面で大勢が示し合わせ、ひとりの生徒を無視する

ことだそうだ。

子供たちの世界ばかりではなく居場所を失って蚊帳の外に放り出される大人の数も年々増加し

てきているようだ。



それならば改めて「蚊帳の中」はどんな世界かといえば、実に快適な空間である。

蚊帳の愛用者の声を聞くとそれがよく分かる。



・エコロジカルで薬剤も使わず、最高です。ぜひ、蚊に悩む人に、広く宣伝してほしいです。

・安心して眠れるようになりました。ありがとうございました。

・蚊対策というのが第一の目的ですが、実際に使用してみると、蚊帳の中で眠ることで安心感

 を得ることができました。母の腹の中にいる胎児の気分を感じたり、あるいは蚊帳の中が小

 宇宙を形成しているような錯覚におちいることもしばしばです。

・寝室では、子供と寝るためにエアコンは使いません。二階でもあり窓を開けたまま眠れるので、

 蚊帳は大変重宝しています。値段は最初は高い!と思ったのですが、長く愛用できるということ

 もあり結局安くつくのかなぁと感じるようになったこのごろです。

・大変重宝しています。私は高知県の出身で、家内は福島県出身ですが、ともに子供のころ家族

 全員が蚊帳に入って一緒に寝た思い出があり、子供が生まれたとき迷わず購入しました。



この二十一世紀に、再び蚊帳の中の住人からいただいたメッセージのほんの一部である。

そんなわけで二十一世紀に生きるみなさまにもぜひこの蚊帳の中のことを知っていただきたいと

思い立ち筆を執ったわけである。



  <中略>



そして、その「蚊帳の中」であなたには極上の「眠り」が授(さず)けられ、みなぎる活力が培われ

育まれ、家庭へ、社会へ、やがて世界の平和と人類の幸福のためにご活躍されることを願いながら。



さあ、どうぞ、蚊帳の中へ。
 あとがき
今、平成の大不況が横たわっている。企業や商店は自らを発展させるために人や資金を投入し続け

てきたが、不況下では自らを維持するためにさまざまなリストラを余儀なくされた。

自らを発展させるためとした、設備もそれに伴う借入金も大きな負の遺産として企業に圧し掛かって

きている今の状況であろう。

働き盛りの人々はと言えば、社会的な居場所を失ったりして「蚊帳の外」に追い出されるケースが多く

見受けられる。中高年者の自殺も増え続けてきている。なにも、自殺までしなくともと、周りは批判

するが、当の本人にとっては命に代えてもという逼迫間に包まれているのだからどうしようもない。



 私と同年代の親たちは、子どもを大学なり専門学校に通わせるため、窮境の生活を余儀なくされて

いる。私は子どもがまだ小さいのでそこまで達していないが、小学校へは地域に開かれた学校運営の

メンバーとして出させていただいている。そこで子どもたちの「生きる力」を育むということテーマ

がしばしば登場した。

 中高年の自殺者の中には、学生時代は勤勉で責任感が強かった人も多かったことと想像される。

彼らはいつの間にか、なにがなんでも生き抜こうという力をどうして欠落させてしまったのであろうか。

社会に住む大人として、子どもたちの「生きる力」を育むにはどのようにしたらいいのだろうかと

考えさせられる課題であった。

人は自分だけの力では生きることはできないと、今、私は痛感している。拾う神様がいてくれて生かさ

れる。仕事も、企業も、お店も、私たち自身も、人の役に立ってこそはじめて生かされるのだと、

追い詰められるまで追い詰められて、そのことに気がついた。仕事を通して人に社会に貢献することが

人の務めであると同時に、それが自らの「生きる力」を育むことにつながるのだと思うようになってきた。

景気が悪くなるにつれ、不景気や世の中のせいにして、金権至上主義や利益最優先主義に陥り、客のニーズ

を忘れて商売している人たちが目立ってきた。

詐欺師まがいの商法で利益を得ても、それは社会に貢献したことにはならない。民間のビジネスのみならず、

官公庁や政治など公の仕事においても客である国民のことを後回しにして、自分たちの利益を優先させた

仕事をしている人たちは少なくない。

仕事をするもの(売り手)も、仕事を与えるもの(買い手)も、そして、社会(世間)にも役立つ「三方

よし」は江戸時代の近江商人の精神であるが、これは二十一世紀の現代にも十分通用する。

私はこの三方よしの精神を名実ともに実践していけば、この世の中はもっと楽しく、希望に満ちたものに

なると確信している。社会に役立たない、客にも不評の商売で、利益を得ても仕事としての広がりはない、

一時の享楽に似ており、深いこころの充足はない。

床に入り、ゆったりとした気持で個人→夫婦→家族→地域→日本→地球→宇宙と広げていくと、社会に

役立ちたいという気持に自然になってくる。そして、こころの充足が感じられる。

私はこの本で蚊帳と眠りのPRマンに徹して、皆さんに蚊帳のよさと質の良い眠りの大切さをアピールした。

これは一人でも多くの人にこころ穏やかに眠り、爽やかで潔い朝を迎えてほしいからである。

睡眠障害に悩まされる人も、希望の持てない人も、この本のいくつかを実践することで、少しでも良い眠り

を得られることを強く望む。

明治維新、終戦、そして、二十一世紀の今、日本は大きな曲がり角にきている。五十数年前の終戦直後の

日本も経済的に苦しい時代で、物はなかったが、希望はあったという。今、不況といえども、物はあふれて

いる。しかし、希望のない社会になった。

どこかが狂っている。社会のサーカディアンリズム(体内時計)が狂っているのかも知れない。この本が

その狂いを少しでも正常に向かせ、希望のともし火をつける一助になれば、私としては何もいうことはない。



インターネット上で毎週月曜日にメールマガジン「あなたにやさしい快眠情報」を発行し続けて、そろそろ

通算二百五十号に届くところまで来ることができた。かねてより「どうぞ、蚊帳の中へ」という題名で

一冊に纏め上げたいと願っていたが、蚊帳のご愛用者の方々はじめ、コンテンツを盛り上げてくださった

多くの方々のおかげで、ここに実現できたことにお礼を申し上げます。

また、出版に当たっては、運良く、本の風景社の筑井信明氏に拾っていただいたこと。それは、今年の寒い

冬の季節に原稿を持って東京の出版社を回るも、なかなか拾ってくれる神様に出会えなかったこの作品を

拾ってくださった筑井氏に感謝の祈りをささげて筆をおくことにする。



 平成十五年四月

  <どうぞ蚊帳の中へ もどる>