長年不眠に悩んでいても、睡眠薬を飲みたくないという人は少なくありません。
そんな人には、漢方薬がおすすめです。
「わたしも以前、睡眠薬を飲んだことがあるのですが、
次の日まで眠気が残って困りました」と話すのは、
表参道福澤クリニックで漢方診療を専門にされている福澤素子副院長です。
「睡眠薬と違って、漢方薬には依存性がありません。
それが不眠症に漢方薬が使われるメリットですね。
効き目が翌日まで残って眠くなったり、だるくなったりという副作用も起こりません。
薬をやめても眠れなくなることはありません。
それから、不眠に関係ないと思われる、肩こり、イライラ、胃の不調、頭痛、
めまいなどの症状もいっしょに治ってしまうのが、漢方薬の特徴といえます」
西洋医学は、病気になった臓器や器官などを調べ、その部分の治療を行います。
これに対し、漢方医学では、病気になるのはその人の全身のバランスが
くずれたためだと考え、バランスの乱れを整えることを治療方針とします。
全身のバランスの乱れは不眠だけでなく、さまざまな症状を招きます。
ですから、漢方薬で不眠が治れば、ほかの症状も同時に解消するのは、
当然のことといえるでしょう。
漢方薬は人間が本来持っている自然治癒力を高める働きをするのです。
そんな漢方薬の効き目を実感する人が最近増えているといいます。
気のめぐりをよくし、血流を整えるのが目標
漢方では、気(形はないが、一種の生命エネルギーと考えられるもの)、
血(血液)、水(体液)が体内をめぐることによって、健康が維持されると
考えられています。では、不眠についてはどう解釈されているのでしょうか。
福澤副院長はこう説明します。
「まず、気の異常が考えられます。不眠は気逆といって、
気の上衝(気が逆流して頭部にのぼること)によるもの、
気うつ(気のめぐりの滞り)によるものが原因となっています。
また、血の異常である●血(血液循環の停滞)、血虚(貧血)も関係しています」
ストレスがたまり、イライラが高じることによって、気逆、気うつ、●血、血虚などが
起こり、それが不眠を招くというのが、漢方の考え方です。
「ですから、気のめぐりをよくすること、
血流を整えることを目標に漢方薬を処方していきます」
福澤副院長の診療経験では、不眠を訴えて訪れる患者は若い人に比べ、
中高年のほうが断然多いといいます。
「中高年の患者さんのうち、二、三割は不眠を主訴とされる方ですね。
最近増えていると思います。漢方薬の場合、睡眠薬のように、飲んだらすぐに
ぐっすり、というわけにはいきませんが、早い人なら二、三日で、一般的には
二週間ほどで自然に気持ちよく眠れるようになります。
体調だけでなく、精神状態もよくなり、日常生活に支障をきたすこともありません」
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それでは、福澤副院長による症例を二つ紹介しましょう。
A子さんは、四十七歳の主婦です。更年期一歩手前で、イライラがひどく、
肩こり、頭痛、めまいとともに不眠があるということでした。
肋骨の下に触れると抵抗感があり、また、へその上をさわると動悸が感じられました
(気逆のあるときに現れる症状です)。
そこで加味逍遥散を処方したところ、二週間で眠れるようになりました。
ほかの症状もなくなり、精神的に落ち着くようになったと喜んでいます。
K雄さんは、五十七歳のサラリーマン。
十年来、夜一時間おきに目が覚めてしまうという訴えでした。
おなかをみると、肋骨の下の抵抗感、へその両脇の筋肉の緊張が感じられました。
四逆散を服用してもらい、二週間後には、三、四時間眠れるようになりました。
様子を聞くと、神経質で、ストレスがあるとのどがつまる感じがするため、
半夏厚朴湯を処方しました。すると、二週間後には五、六時間眠れ、下痢も
おさまりました。
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福澤素子先生(ふくざわもとこ)
福澤クリニック副院長。医学博士。
慶應義塾大学医学部内科学助教授を経て、
本年、クリニック開設とともに副院長に就任。
1990年から担当し続けた慶應病院漢方クリニックは講師として継続し、
慶應義塾大学医学部非常勤講師を兼任。
日本漢方医学研究所附属クリニック講師。
漢方医の家に生まれ、医学部在学中より漢方を学び、卒後一貫して漢方治療を実践。
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